ヨガ・リラクゼーションサロン「ねっこ と そら」の経営、「はぶ草茶」の栽培・販売、そして2025年1月に一棟貸しの素泊まり宿「実葉土(みはど)」をオープンし、多岐にわたって活躍している谷和香菜さん。
 
―――前回インタビューをさせていただいてから現在までの変化について教えてください。
「まず、大きかったのはコロナ禍ですね。お店を1か月くらい休む形になったので、オンラインヨガを始めたんです。それが未だに続けられているのは、ご参加くださる方のお陰です。コロナが開けても需要があったのが意外でした。苦肉の策で始めましたが、今も週に1回、夜9時から開催しています。
2018年から、はぶ草の栽培を始めました。当時健在だった祖母に畑を教えてもらいながら商品化について試行錯誤し、やっと去年「はぶ草茶」の販売をスタートしました。はぶ茶は、小さい時からずっと飲んでいて大好きです。神奈川にいたときにも祖母のはぶ茶を送ってもらい、毎日飲んでいました。あるとき、はぶ茶を神奈川の友人に振舞ったら、美味しさに感動して泣かれたことがあって。友人は「何故か自分のおばあちゃんを思い出す」と言っていました(笑)
その涙を見て、私は将来はぶ茶を県外に届けると決心しました。」
 
―――農業のノウハウはどのように身につけられていったのですか?
「私は須崎が地元で、代々の畑がもともとあって、祖母から習いました。ですので、どこかに習いに行ったわけではないですが、一度だけ四万十町窪川にある農業担い手育成センターへトラクター講習を受けに行きました。私はペーパードライバーでして、最後に車に乗ったのは、そのトラクターです(笑)就農したい方は、そういう施設へ行かれるのも良いと思います。」
 
―――はぶ茶の特徴を教えてください。
「いちばん分かりやすいのは、ノンカフェインで香ばしいということですね。それに、色んなブレンドが利くので、きしまめ茶と混ぜて飲んでいる方もいますね。須崎の人たちは、野草茶を飲む習慣があって、しその葉茶やどくだみ茶なども飲んだりします。緑茶とはぶ茶をブレンドしても美味しいですよ。これから色々なブレンドを試し、販売したいなと考えています。」
 

 
―――パッケージのイラストはどなたのお顔ですか?
「祖母です。宿毛でお店をしている友人に、祖母の笑っている写真を渡して描いてもらいました。本当は「かよこのはぶ茶」という祖母の名前を商品名にしたいと思ったのですが、祖母に聞くと「いや〜ぜ、恥ずかしい」と(笑)なので顔をパッケージにさせてもらいました。ただ、完成する前に祖母は亡くなってしまって。完成品を見せられなかったのが悔しいかな。」
 
―――年間通じて販売できるくらい生産しているのですか?
「はい、それができるくらいしっかり作っておこうと思っています。去年は途中で足りなくなってしまったので。今は2番茶まで採っていますね。他の農家さんは3番茶まで採っている方もいますが、なかなか難しくてまだそこまではできていないですね。」
 
―――今年1月にオープンした素泊まり宿「実葉土」のお話を伺いたいです。
「実は2018年に、ひょんな理由で小さな一軒家を購入したんです。実家の三軒隣で、実家の向かいには祖母の家。なので行き来しやすく、三軒を渡り歩く生活をしていました。購入した家は主に、友人同士で家飲みして泊まってもらう場所。ある時、友人の一人が「ここ、宿にしたら?」と言ってきて、そこで初めて「考えたことなかったけど、いいかも!」と思いました。そしてこれもひょんな理由で、2年前から近所の老舗旅館の朝ごはん作りのアルバイトにも行っていて、お客さん対応や旅館運営のノウハウがたまたま知れたというのも、気持ちが高まった理由ですね。旅館バイトに行き始めた年の冬に同居の祖母を看取り、7年間の介護生活が終わり、時間に余裕ができました。それで、宿泊施設オープンに向けて動き始めたのが2024年からです。さっそく耐震工事をお願いし、自分で漆喰や珪藻土を塗りました。なるべく高知のものを使いたいと思ったので、漆喰は土佐漆喰で、障子紙は土佐和紙を使っています。」
 
―――壁塗りの知識はもともとあったんですか?
「知識はありませんでしたが、以前、「暮らしのねっこ」さんが漆喰を塗るワークショップをやっていて、「自分で塗れるんだ!」ってそのときに知りました。サロンの壁紙は自分で貼ったし「自分こういうの好きやん!」と思って、「実葉土」の壁塗りも自分でやってみようと思いました。そこからネットで情報収集(笑)準備が楽しいし、好きだから作業が全然苦じゃないです。壁から漆喰がちょっとはみ出てたりも、それもそれで味だなと思います。直すこともできますし、失敗してもリカバリーできるっていうのが、壁塗りの魅力じゃないですかね。」
 
―――オープンしてから印象的な出来事はありましたか?
「つい先日、オープンウォータースイミングに出場される方から宿泊予約が入り、大会前日に須崎に来られるということで「朝8時にチェックインしたい」と言われて驚きましたが、前泊のお客様も居なかったのでご対応しました。
チェックイン時に色々話していたら仲良くなって、このあとサロンでヨガクラスを行うと伝えたら「やりたい」とのことでご参加くださり、そのまま半日、一緒に居ました(笑)地元の人の地元の話を聞きたい、この町のことを知りたいと言ってくださり、まち歩きの合間にランチを食べて、お茶をして。さらに大会に備えてマッサージを受けたいとのことでサロンで施術。はぶ茶をひとつサービスで提供したらお土産に買って帰りたいと10袋も購入してくださり、気付けば私の全仕事が繋がっていました(笑)それでヨガや施術、まち歩き付き宿泊プランもありかもって、そのお客さんのおかげでアイディアが浮かびました。他に印象的なのは、国内外からのお遍路さんです。いろんな県や国の方々に出会えますね。日本人だと何度も八十八ヶ所巡りをされている先達さんが印象的でした。外国の方との会話はスマホアプリでできるし、今朝もバイト先にはフランスやデンマークの方がいらっしゃいました。中には自分の国に遊びに来たときは連絡ちょうだい!と連絡先交換する方々も居て、須崎に居ながら色んな国に友達が増えています(笑)」
 

 
―――移住を検討している人へのアドバイスをお願いします!
「やっぱり車の免許は持っておいた方が良いと思います。汽車やバスも運行本数が減ってきていますしね。個人的に2段階移住の制度はいいと思います。高知市に住んで田舎なりの便利な生活を享受しつつ、もっと田舎の移住候補地に行ってみる。ちゃんと迷う余地があって、いきなり移住先を決めてしまわなくて良いのが安心かなと。お試し期間なく移住するのもちょっと怖いですもんね。
地元の人と会話ができるところに泊まってみたりとか、地元の人と触れ合える場所に行ってみたりとか。お酒は無理して飲まなくていいと思います(笑)話してみないことには、まちのことはわからないですからね。1回と言わず2、3回くらいは来てほしいなって思いますね。1人の意見だけじゃなくて、多面的にまちを見られるように色んな人の意見を聞くのがいいと思います。誰に話を聞くのか迷ったら、どうぞうちの宿へ(笑)」
 
―――今後やりたいことはありますか?
「たくさんあります(笑)ただ、絞るとしたらホームページをちゃんと更新したいと思っています。色々伝えたいことはあるけど、言語化するのに時間がかかりますよね。漆喰の塗り方にしても、須崎の美味しいお店にしても、伝えていくことでどなたかの役に立つことってあると思うんですよ。ひとまず、自分がやっていることを続けながら、分かりやすく発信していくことが2026年の目標です!」
 
持ち前のアグレッシブさで多岐に渡った活躍をされる谷さんのお話を聞いていると、自然と元気が湧いてきました。谷さんの持てるポテンシャルをフル動員して様々なご縁を繋いでくれることをこれからも期待しています!!
 
(2025年10月取材:片田・大﨑)
 
●6年前に取材した記事はこちらから↓●


 
――――――須崎市に戻る前はどんなことをしていましたか?
東京の短大卒業後、大手リラクゼーションサロンに就職しました。数年後に鍼灸あまし師の専門学校にも通い始めたのですが、仕事と学業の両立ができず退学しました。接客業から離れようと思い、オフィスワークをしていたときにヨガと出会い、自分の心身と向き合うことの大切さに気付かされました。その後再転職し、鍼灸整骨院併設のリラクゼーションサロンで働きながら、休日は出張ヨガで高齢者宅に伺っていました。
 
――――――Uターンをしようと思ったきっかけは何ですか?
20代の時に祖父が他界したことがきっかけです。当時の仕事は長期休暇が取りづらく、数年帰省しない間に祖父は入院し、病床で痩せ細っていました。悲しく思いましたが、そんな祖父をしっかり看病する元気な祖母を見て「祖母が元気なうちに須崎に戻る。私が40歳になるまでは元気で居てくれるはず!」と信じ、35歳でUターンすると決め、33歳から準備を始めました。
 

 
――――――Uターン前に不安だったことはありますか?
一番は収入が安定するかということです。父親にも相談をしていましたが「大丈夫なん!?」と言われることも(笑)
高知県での社会経験がほとんど無いまま関東に出たので、高知での「仕事上の人間同士の距離感」が分からないのも不安でした。高知は色んな意味で人との距離が近いから独特なのかなと勝手に思ったりしてて(笑)今思えば考えすぎでした。関東の時と同じ距離感で仕事をしています。段々と「ビジネス土佐弁」も喋れるようになってきました。
 
――――――須崎に戻ってきてみてどうですか?
今、実家で父母と暮らしてますが、毎日夕食にお刺身が出るのがすごい贅沢(笑)
仕事もおかげ様で順調で、地域の方々の健やかな日常作りのお役に立てて嬉しいです。時間を作り、ビニールハウスのししとう収穫や、文旦の花粉付け、トラクターの乗り方講座など農業も学んでいます。最高の学び環境です。
 
――――――生活にはどのような変化がありましたか?
Uターン前は、仕事と生活と起業準備に手一杯で新たなことに挑戦する余裕がありませんでしたが、今は時間も気持ちも余裕があります。
精油について更に学びを深めたり、2年前から祖母のハブ茶畑を手伝っています。ハブ茶は東京の友人達に好評で、種まきから刈り取り、煎るところまで全て自分で行ったものを将来提供したいと思っています。
 
――――――就業ではなく起業を選んだ理由は?
Uターン準備期間中に情報収集しました。求人情報も見ましたが、場所が遠かったり、条件に合わなかったり。理想は「祖母や家族の近くに居られて、ヨガを伝えながら、ボディケアを提供できる仕事」だったので、もう起業するしか無いですよね(笑)
 

 
――――――須崎市の魅力を教えてください!
海・山・川が近くにあって、星が見え、虫の声が聞こえて、鳥の鳴き声もして。当たり前だと思っていたことが改めて魅力だと思います。仕事の空き時間には徒歩5分の海『富士が浜』に行ってリフレッシュしています。私にとって『富士が浜』の存在はとても大きいですね。夜の浜もすごく良くて、仰向けに寝転がって波の音を聴きながら星を見るのが最高なんですよ!
 
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移住・Uターンしたい人へのアドバイス
 
自動車運転免許はあった方が良いです。私はUターン後すぐに須崎自動車学校に通い免許を取得しました。今はペーパードライバーですが(笑)。借りたテナントが家と近すぎた嬉しい誤算です。遠出は主に汽車、バス、路面電車、誰かの車にお世話になってます。移住候補地の交通機関の時刻表やルートを調べ、それを踏まえて要不要を判断されると良いと思います。
 
(2019年7月取材)